【新(あら)走り】
長助さんに言われるまま、視線を下にやると、絞り機の台とおぼしき
部分がやはり赤い漆で塗られた木で出来ており、そこからせり出した所
から、漆黒の液体が蕩々と流れ出していることに気づいた。
長助 「醤油というものは、大豆と麦と塩で、それを寝かせて醤油の
原型となる。これをモロミというのじゃが、それが一年以上。
その熟成が済んだものを、さっき見た布袋の中に入れて、
その袋をいくつも絞り台に積んでおくのじゃ。
そうしてその日はそのまんま自然に垂れてくるのを待つ、
次の日、袋が破れて中のモロミが出ないようにチョボット
重石を乗せてやる、またその次の日はもうちょっと重石を
重くしてやるのじゃよ。
そぉっとそおっと孫をあやすように絞っていってな、それ、その
一メートル四方ほどの所いっぱいにするのに四日はかかる・・
実にノンビリとしたもんじゃなぁ。
今時こんな悠長に古くさい絞りをしておるところも少なくなって
きておるじゃろが、わしゃこんなして絞った醤油のほうがうまい
様な気もするのじゃがな、フォッフォ」
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